松岡光治(編)『ディケンズとギッシング――底流をなすものと似て非なるもの』
文藝
書籍名 | ディケンズとギッシング――底流をなすものと似て非なるもの |
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価格 | 3,400円(税別) |
著者名 | 松岡光治(編) |
サイズ | A5判 |
ページ数 | viii+298ページ |
ISBN | 978-4-271-21059-7 |
出版日 | 2018年12月25日 |
ヴィクトリア朝前期の国民作家ディケンズと彼を敬愛して批評書や作品の序文まで書いたヴィクトリア朝後期の自然主義作家ギッシングを比較検討した論文集
C・K・ショーターは、ジョージ・ギッシング著『チャールズ・ディケンズ論』(1898年)の書評で、「ディケンズを好意的に批評する仕事がギッシング氏に与えられたのは面白い皮肉だ」と述べている。前者は貧困を実際以上に明るく、後者は実際より暗く描いているからである。楽観主義と悲観主義という大まかな作風の違いはあるにせよ、ギッシングの陰鬱な小説にはディケンズ的な笑いやユーモアが見られるし、ディケンズがギッシング並みの重苦しい深刻なテーマで書いた作品も少なくない。また、登場人物、プロット、技法、社会問題の扱い方、ロンドンの情景描写などに関して、これまで両作家の類似点がたびたび指摘されてきた。しかし、そうした類似点の背後には二人が持って生まれた気質の影響、そしてヴィクトリア朝前半と後半の時代精神や社会風潮の影響を受けた相違点も見出せる。本書では、このような「隠れた類似点と相違点」に着目しながら、ディケンズとギッシングの作品について、序章に続けて15の観点から比較検討した。
目 次
巻頭言 小池 滋 序 章(松岡光治) ディケンズとギッシングの隠れた類似点と相違点 第1節:両作家が生きた時代 第2節:似て非なるリアリズムと自然主義 第3節:階級の壁を地下で支えているもの 第4節:虚像としての家庭の天使と新しい女 第1章 小宮彩加 ディケンズのロンドンからギッシングのロンドンへ 第1節:新旧ロンドン作家 第2節:『暁の労働者たち』とサフロン・ヒル 第3節:『ネザー・ワールド』のクラーケンウェル 第4節:急速に変わりゆくロンドン 第2章 吉田朱美 つのりくる酒の恐怖――ディケンズ作品から 『暁の労働者たち』へ 第1節:愛すべき酒から破滅をもたらす酒まで 第2節:オリヴァーとアーサーとを分かつもの 第3節:満たされない女たちに沁みるブランデー 第4節:ギャンプからチャンプ、そしてヘンプへ 第3章 中田元子 紳士淑女の仕事――リスペクタブルな事務労働のジレンマ 第1節:父親的温情主義に守られた事務員 第2節:孤独な事務員の葛藤 第3節:シルクハットの重圧 第4節:女性事務員の前途 第4章 玉井史絵 小説家の使命――〈共感〉をめぐるポリティクス 第1節:小説による共感的想像力の喚起 第2節:アダム・スミス『道徳感情論』における〈共感〉 第3節:国民的悲しみ――『骨董屋』における共感 第4節:『暁の労働者たち』における共感の破綻 第5章 金山亮太 教育は誰のためのものか――社会から個人へ 第1節:教育の変質 第2節:女子教育の限界 第3節:青雲の志の嘘 第4節:教養教育の衰退 第6章 松岡光治 イギリス近代都市生活者の自己否定・自己疎外・自己欺瞞 第1節:世俗内禁欲としての自己否定 第2節:社会的適応/不適応による自己疎外 第3節:自然主義に内在する自己欺瞞性 第4節:防衛機制としての集団的な自己欺瞞 第7章 田中孝信 〈新しい男〉の生成――男女の新たな関係を巡る葛藤 第1節:〈新しい男〉とは? 第2節:ジェントルマン像における両性具有性 第3節:〈新しい男〉になり切れない男たち 第4節:ジェンダーの境界線を超えて 第8章 木村晶子 家庭の天使と新しい女――女性像再考 第1節:『互いの友』の女性像 第2節:ギッシングの〈新しい女〉の表象 第3節:ミソジニーと母性 第4節:リアリズムの彼方 第9章 松本靖彦 『互いの友』と『女王即位五十年祭の年に』にみる広告と消費(商品)文化 第1節:実際よりもよく見せる広告戦略 第2節:広告だらけの『女王即位』にみる雑種性 第3節:『互いの友』が魅せられる広告形態 第4節:雑多なままと篩い分け 第10章 新野 緑 ディケンズとの対話――『三文文士』における商業主義とリアリズム 第1節:『エドウィン・ドルードの謎』の影 第2節:欲望から金銭へ 第3節:読者の権威 第4節:リアリズムのゆくえ 第11章 楚輪松人 原本と縮約版――二つの『チャールズ・ディケンズの生涯』 第1節:伝記とディケンズ 第2節:「文学の尊厳」の擁護者、フォースター 第3節:三文文士、ギッシング 第4節:かげろう小僧、ディケンズ 第12章 宮丸裕二 伝記と自伝――人生はどう描かれるのか 第1節:ディケンズが考える歴史記述としての伝記 第2節:自分で書く伝記――ディケンズの自伝 第3節:批評的展開――ギッシングの伝記 第4節:自分を題材にした小説――ギッシングの自伝 第13章 麻畠徳子 文人としての英雄──ディケンズの敢闘精神とその継承者 第1節:ディケンズと英雄崇拝 第2節:ディケンズによる王立文学基金との闘争 第3節:ベザントによる作家協会の創設 第4節:ギッシングによる内なる闘争回顧録 第14章 三宅敦子 諷刺される十九世紀英国の室内装飾 第1節:ロンドン万博とデザイン改革 第2節:ディケンズが描くデザイン改革 第3節:大衆化する室内装飾 第4節:ギッシングが描く室内装飾 第15. 橋野朋子 ギッシング作品の書評にみるディケンズ的要素 第1節:初期ギッシング作品の批評の傾向 第2節:求められるディケンズ的要素 第3節:悲観主義からの脱却 第4節:読者への意識と晩年の作品の評価 あとがき 使用文献一覧 図版一覧 執筆者一覧 索引