"such a world of fools as this"

甥のフレッドにとってクリスマスとは、「親切な、人を宥してやる、慈悲心に富んだ、樂しい時期、 男も女も一様に揃うて、閉ぢ切つてゐた心を自由に開いて、自分達より目下の者どもも實際は一緒 に墓場へ旅行してゐる道伴侶で、決して他の旅路を指して出掛ける別の人種ではないと云ふやうに考へる、 一年の長い暦の中でも、私の知つてゐる唯一の時期」であるが、 スクルージにとっては、「金子もないのに勘定書を拂ふ時、一つ餘計に年を取りながら、 一つだつて餘計に金持にはなれない時、帳面の決算をして、その中のどの口座を見ても 丸一年の聞ずつと損にばかりなつてゐることを知る時」にすぎない。この物語の中心テーマは、 フレッドによるクリスマスの定義に代表されるように、キリスト教精神(特に慈善)であるが、 そうした精神を声高に叫ぶ中産階級の紳士たちを「狂人」、そうした人々によって 支配されている社会を「精神病院」と見なすアンチ・ヒーロー、スクルージの意見は、ある 意味で真実を捉えたものであり、周縁化された彼の冷徹な視点に立てば、この物語の中心 テーマはその偽善性ゆえに突き崩されてしまう。