松岡光治 編訳 『ギャスケル短篇集』岩波文庫、2000年、700円)

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ごく普通の少女として育ち、結婚して子供を育て--とりたてて波瀾のない穏やかな生涯の中で、ギャスケル (1810-65) は、聡明な現実感覚と落ち着いた語り口で人生を活写した魅力的な作品を書いた。

目 次

  1. ジョン・ミドルトンの心 (The Heart of John Middleton)
  2. 婆やの話 (The Old Nurse's Story)
  3. 異父兄弟 (The Half-Brothers)
  4. 墓掘り男が見た英雄 (The Sexton's Hero)
  5. 家庭の苦労 (Bessy's Troubles at Home)
  6. ペン・モーファの泉 (The Well of Pen-Morfa)
  7. リジー・リー (Lizzie Leigh)
  8. 終わりよければ (Right at Last)

 ギャスケル(Elizabeth Cleghorn Gaskell, 1810-65)は、幾つもの長篇小説に加えて約四十の短篇小説を書いた。イギリスの女流作家の中で、短篇小説を書いて商業ベースでの成功を収めたのは、彼女が最初であると言われている。その成功に大きく貢献したのが、彼女の作品の大半を自らの週間雑誌『暮らしの言葉』(Household Words) に掲載してくれた文壇の大御所ディケンズ (Charles Dickens, 1812-70) である。彼はギャスケルに対して矢継ぎばやに寄稿を要請したが、一八五一年十一月二十五日に書いた手紙の中で、「親愛なるシェヘラザード、と申し上げるのは、あなたの語る能力が一夜だけで消耗するはずは絶対にないからです。少なくとも千一夜は続くに違いありません」と言っている。これはもちろん『アラビアンナイト』の語り手、夜ごと処女をめとって殺し続けていたサルタン王の妃となり、千一夜の間おもしろい話を聞かせて殺害を免れたというシェヘラザードのことである。ギャスケルは作品執筆の疲れをいやすために、また新たな題材を得るために頻繁に国内外を旅行したが、その旅費をディケンズから調達すべく、短篇小説を一気に書き上げることがあった。しかも、巧みなプロット操作と鋭い心理描写とで読者の心を引きつけ、あっと言う間に読破させて次の作品を求めさせてしまうのである。ギャスケルが「ヴィクトリア朝のシェヘラザード」という名に値する天成のストーリー・テラーであったことは想像にかたくない。本短篇集では、何はともあれ読み物として面白く、そしてギャスケルの特質が顕著に現われた八編を選んでみた。

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