電子メール活用法

松 岡 光 治


3 電子メールの英語

ある意味で電子メールは電話/会話の文字化だと言えます。"([Have] you got) Any suggestions?" のように、会話調の簡潔さが好まれるようです。また、"(I) Hope this helps." や "(I have) Just received it." のように、一人称の主語や助動詞などがよく省略されます。プライベートな電子メールでは、時候の挨拶や状況の説明はあまり見られません。その他、略語 (abbreviation) を使用したり、"emoticon" (emotiion + icon) や "smiley" と呼ばれる顔文字で感情を表現したり、最後の挨拶も実に簡単なものです。このように、電子メールも簡潔さが進むと、最後は電話/会話でのワン・フレーズとなり、第7章で解説するような「チャット」に限りなく近くなっていきます。

対面的コミュニケーションに近い電子メールといえども、「メール(手紙)」であることに変わりはありません。従って、英語のスタイル(文体)もまた、相手との関係の親疎によって異なってきます。まずは、フォーマルな電子メールとインフォーマルな電子メールの一般的な例を挙げ、比較してみましょう。

フォーマルな電子メールの例

相手と自分の電子メール・アドレスに続く "Subject" 欄には当然ながら英語を入れねばなりませんが、一日に数十通以上も受け取っている人が相手であれば、"Subject" 欄の内容次第で読まれることなく、ゴミ箱に捨てられる恐れがありますので、必ず書き入れましょう。何かを尋ねたい時は、返事をもらうために内容を丁寧な英語で書く必要がありますが、それに応じて "Subject" 欄も相手の関心を引くような言葉がいいと思います。"Help!!!" とか "Urgent!" とかは厳禁です。「電子メールによる質問」については第4章を御覧ください。

"Cc" とは Carbon copy の略で、相手と同時に第三者にも送りたい時、その第三者のアドレスをここに入れます。第三者は何人でもいい(To: の箇所に入れるアドレスも何人でも可)ですが、必ずアドレスとアドレスの間に半角のコンマを入れなければなりません。"Bcc" (Blind carbon copy) は、宛先と "Cc" の人には内緒で送りたい相手のアドレス(何人でも可)を入れます。ここに入れたアドレスは宛先と "Cc" の人には見えません。

フォーマルな電子メールの冒頭の敬辞は、"Dear Mr. Matsuoka", "Dear Ms. Gaskell", "Dear Professor Dickens" とかで始まります。フェミニストからの抗議を受けないために "Dear Sir" は避けるべきです。自分で "Mrs. ***" と書いてきた相手以外の女性には、"Mrs. ***" もやめた方が無難で、"Ms. ***" にすべきです。全く面識のない人が相手で性別も区別できない場合は、"Dear Sir or Madam", "Dear Sir/Madam", "Dear Sirs and/or Madams" などがいいと思います。逆に、親しくなった電子メールの相手に対して、いつまでも敬称をつけていると、かえって失礼となりますので、そこは臨機応変に処理してください。

電子メールでは行間が狭くなるのが普通ですので、読みやすくするために段落ごとに空白行を入れ、その代わり新しい段落は左端をそろえたフルブロック型のレイアウトにして、一定字数を引っ込め(インデント)させたりはしません。

「敬具」に相当する最後の "Yours sincerely" は、相手との親疎の度合いで添える副詞が変わってきます。"Yours sincerely" は同輩間で使われます。その他、"Yours respectfully"(官庁や主人へ)、"Yours faithfully"(目上の/未知の人へ)、"Yours truly"(ちょっとした友人へ)。親友の間では "Yours" だけ、あるいは "Yours ever/always" などがあります。また、これらの表現とは別に、相手の幸福を祈る気持ちを表わして、"With best wishes" や "With kind regards" がよく使われます。

最後に発信人の名前ですが、上の例のように署名(名前、所属、電話、URL など)が電子メール・ソフトに設定されている場合は、必要ありません。

フォーマルな電子メールでも、たとえばビジネス用であれば、相手が得意先か、同業先か、下請け先かで、書き方もかなり違ってくるはずです。電子メールの英語は会話感覚ですので、忘れてならないのは電話ならば相手に対してどういうふうに話すかということです。

インフォーマルな電子メールの例

ファースト・ネームで呼び合う相手(英米では年令に関係なく、自分の親は別として、親しい相手にはファースト・ネームを使います)には、"Hi, Mitsu," や "Hello, there" などを使っても構いませんし、冒頭の敬辞は省略して、いきなり書き出しても失礼ではありません。

電子メールの返事は多くの場合、冒頭の敬辞に続いて、"Thank you/Thanks for. . . ." で始まるようです。

結びの箇所には、簡単に "Thanks," または「ではまた/さよなら」の意で、"Bye", "See you", "Cheers", "Adios" などをよく見かけます。"Sayonara" も国際語ですから、こちらが日本人だと分かっているならば、使ってもいいのではないでしょうか?

相手は懇意な間柄ですから、最後の署名はファースト・ネームだけでいいでしょう。電子メールに設定された自動署名の機能は使わない方が、インフォーマルな電子メールらしいかもしれません。

"BTW" (By the way) や "BFN" (Bye for now.) など、電子メールやチャットでは、簡潔さを求めて略語がしばしば使われます。例としては次のようなものがあります。

AFAIK As Far As I Know
ASAP As Soon As Possible
BTW By The Way
FYI For Your Information
HHOK Ha Ha Only Kidding
HTH Hope this Helps!
IMHO In My Humble Opinion
IOW In Other Words
LOL Laughing Out Loud
MYOB Mind Your Own Business
OTOH On The Other Hand
ROTFL Rolling On The Floor Laughing!
TTBOMK To The Best Of My Knowledge
WDYMBT What Do You Mean By That?
WRT With Regard To
Pls. Please

また、電子メールやチャットでは、感情を効果的に表わすために ASCII (American Standard Code for Information Interchange) 文字を組み合わせて人の表情に似せた、いわゆる顔文字がしばしば使われます。代表的なものは、笑顔の :-) と渋面の :-( ですが、横書きの文化と縦書きの文化の違いか、「右側を下にして見る」と言われないと、初めての日本人には理解できないようです。しかし、言語によらない感情表現は日本人の方が数段すぐれているようで、そのことは「日本版顔文字リンク集」を見れば、すぐに納得がいきます。英語版のサイトはサーチ・エンジンで "emoticon" を検索すれば幾らでも見つかります。以下、有名なものを列挙します。くどいようですが、洋書売り場とは逆で、右を下にして見ます。

:-) I am happy.
:-( I am sad.
:-o I am surprised.
:-| I am nervous.
:*) I am drunk.
:-D That's funny.
:-> Irony
;-) Winking
>:-) A devil with a grin
<:-) Wearing a dunce's cap; for those stupid questions.

ただし、顔文字の使用は親しい相手だけにしましょう。日本人とはユーモアの感覚が違うので、思わぬ誤解を受けることがあります。中には、顔文字を見ただけで、感情的になる人がいますので、気をつけましょう。

電子メールはまだ文字が主流であるために、相手を納得させようとすると、細かなニュアンスや感情のひだが伝わりにくく、ちょっとした言葉のあやがもとで、壮絶なフレイミング (flaming) に発展してしまいます。二人の間だけならばまだしも、メーリング・リストでフレイミングが展開されると、燎原の火のように広がっていき、リスト・オーナーに多大の迷惑をかけるだけでなく、自分自身が烙印を押されます。英語でフレイミングができれば大したものですが、自分はまったく悪気がないのに、拙い英語が原因で相手をフレイミングさせる危険性は大いにあります。「電子メールは会話調でインフォーマルでやる」という一般的傾向がありますが、フォーマルな書き方で悪いわけではないのですから、リストの性格が分かるまでは(日本人らしいと言われるかもしれませんが)フォーマルな書き方をした方が無難です。



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